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魔法の言葉
オレは何時、『大人』になったのだろう。
成人年齢をこえた瞬間からだろうか。
それとも、大切な人を失った瞬間からだろうか。
生真面目に書類の束と向き合うシカマルの顔を見ていたら、ふとそんな思いが浮き上がって来た。切れ長の瞳をいつになく真剣な色に染めて書類と向き合うその姿は、初めて会った時より随分と大人びている。
はじめて見たのは中忍試験。アスマが眼をかけている生徒だと聞いてどんなヤツかと思ってみてみたら、なんともやる気のなさそうなちびっ子で。しかし、やる気の無い態度と口の悪さに反比例する様な、雰囲気の柔らかさは不思議に思ったものだ。
しかし、特筆すべき能力も無い上、攻撃力もあの三人は高いとは言えない。中忍試験なんかに放り込んで大丈夫なのか、と当のアスマに問いかければ、アイツは面白そうに笑って『見ていれば分る』と答えた。
オレはなんとなくその言葉が気になって、それから中忍試験の間中、アスマの部下である三人の動向をチェックしてみた。行動一つとっても、やはりまだまだ子供らしさが抜けきっておらず、技や動作にも無駄な点は多い。それにあわせて、何かと愉快な奴らだった。
そんな子供達なのに、『チーム』で動く、と言う事を本能で理解しているようだった。三人が三人とも出しゃばらず、かといって消極的でもない。各々が自分の役割を理解し、行動する。これにかけては他の参加者達の中では抜群の出来で驚いたものだ。
オレが昔を思い出して笑いを漏らせば、シカマルは書類から視線を外してオレを見上げる。あれからシカマルもだいぶ身長は伸びたけれど、まだオレの方が高い。
「なんかしたんスか?」
「いや、昔を思い出してちょっとな」
「昔?」
「ん、シカマルもデカクなったなぁってさ」
こんなに小さかったのに、と極端に示してみせれば呆れたように溜息を漏らした。
「そんなにチビじゃなかったっスよ」
オレの戯れ言に付き合ってくれるのか、呆れながらもシカマルは言葉を返してくれた。
「アスマと並ぶとこんなもんに見えるんだよ」
「アスマと並んだら大抵がちびっ子でしょうが」
「まあな。アイツと並んで引けを取らないのは秋道の親父さんとイビキぐらいなもんだ」
オレがそう言えば、シカマルの表情が柔らかくなる。そう、シカマルに対して『アスマ』という単語はちょっとした魔法の言葉なのだ。つかれた時や、煮詰まっている時に『アスマ』を交えた話をすれば、その表情は眼に見えて柔らかくなる。それを教えてくれたのは、あろう事かカカシで。初めてシカマルと組んで任務に当たる前に、もったいぶったように『魔法の言葉』だといってこの事を教えてくれたのだ。会話に困ったり、シカマルが緊張しているようだったら『アスマ』について話せば大丈夫だと。
単純に『好き』なのだなぁ、とシカマルの表情をみると分る。その『好き』はどの『好き』にも通じているようで、最初はどんな『好き』かまでは分らなかったけれど。カカシの言葉は半信半疑だったけれど、シカマルの表情をみて確信したんだ。その時は、随分とあの髭も生徒に好かれるいい教官になったものだと感心したものだった。
そう、あの魔の『夏』が来るまでは……。
あの日はこう、夕日が綺麗でそれと同じ位殺人的に熱かった。もう美しいと変に形容したくなるからい、夏らしくあつい夕暮れ。そんな熱いさなかに、シカマルは待機所で今日のように書類に眼を通していて、そのまま眠りこけていて。オレはオレで、イカレたカカシの野郎から報告書を預けられて、そいつの処理にここに立ち寄ったのだ。
アレが、運のツキだったんだよなぁ、今想えば…。
オレがあの時、眠りこけるシカマルの顔に見惚れなければ、少しぐらい寝かせてやろうなんて仏心を出さなければ、知らずにすんだかもしれないのに。
常識人だとはいえないが、オレの知っている非常識人達よりは一般常識くらいはわきまえているつもりでいた。その常識にカウンターパンチをくれやがったんだよ、シカマルは。聞いたときは冷静にパニクっていたから、どうって事無いように想えたけれど、あとあとジワジワと効いてきたんだよなぁ。
一つに性別。一つに歳の差。どちらか片方だけでも十分な破壊力だ。あわせて首筋についていた跡…。
お節介で莫迦な事を聞くと自覚しながらも、オレはアスマにわざわざ聞いてしまったんだよな、あの後。相手がいい歳の女性であったなら、すんなりと、それこそ冗談まじりに聞けたであろうに。あの時を思い出すと、今だに恥ずかしい。お前は幾つですか、と突っ込みたくる。
なかばテンパっているオレとは逆にアスマは落ち着いたもので、オレの質問に暢気に答えてくれたのだ。まるで煙を吐き出すかのごとく自然に。それこそ、テンパっているオレがバカバカしいと想える様な落ち着だった。
そんなアスマの仕草に騙されたのかもしれないが、それ以来オレの中の『常識』は死んでしまったらしい。返答次第じゃぶん殴ろうかとも思っていたのに、自分の心情もいい加減なもんだと呆れた。
冷静に考えればあの髭が『遊び半分』とか『気の迷い』とか、いい加減なことで行動を起こす筈がないと分りきっていた筈なのにな。やはりあのときは『冷静』では無かったのだ。そういうふうに思いたい。想わせてくれ。
だいたい、二人で並んでいる所に違和感が無いのだコイツらは。アスマの隣にはシカマルがすっぽりと収まるし、逆もまたそうなんだ。それでいて、依存しているとか、そういった雰囲気は無い。つかず離れずのちょうどいい距離感ってやつなのかね。
下らない回想から思考を『今』に引き戻して、オレは目の前にいるシカマルに意識を戻す。手もとの書類は残り僅かとなっており、ものの数分でシカマルは自由のみとなるだろう。作戦会議やらなんやらがあるのは後日だからな。
書類束の残りは、涼しい顔をして脳みそをフル回転させているシカマルに魔法の言葉をかけるまでの残り時間。なに食わぬ顔をしながらも、嬉しそうに目許を緩めるであろうシカマルをおもうと、オレまで優しい気分になれる。
なんとなく、後ろ暗い気持ちも混じるが、これくらいはいいよな。
誰に対しての確認なのか分らない問いを胸の中で呟くと、オレは残りの書類束をカウントしはじめた。
こちらも3999hitでいただきました!ふたつめ!ふたつも!
しかもライドウさん視点とは‥‥だ、大好きです。ライドウさん大好き。特上大好き。
ライシカ、と言っちゃっていいのだろうか。ライ→シカ?
良すぎる。厳格、几帳面なライドウさんがシカマルに惹かれてるなんて良すぎる。
そしてシカマル、「アスマ」で嬉しそうな顔するとか‥‥け、けしからん!
クロ雨蛙様、本当にありがとうございました(´∀`)
見事にツボをぎゅんぎゅん突かれました。ごちそうさまでした。
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クロ雨蛙様のサイト「Mars dog」はこちらからどうぞ。