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血臭――アスマはその牢に入るのを一瞬ためらった。入れば、最悪の結果がそこにあるような気がした。
中忍になったイルカが最初に受けた任務はCランクの、下忍でもそれなりにこなせるような内容のはずだった。同じく中忍になりたてのふたりとスリーマンセルで出発してから3日後、別のAランクの任務とつながりがあることがわかり、Cランク任務は突如Aランク並の難易度に変貌した。すぐに応援部隊が編成され、アスマはそのひとりだった。
3代目火影は震える声を何とか抑え、「頼んだぞ」と呟いた。当然だ、イルカは3代目にとって孫のような存在だから。アスマは面倒なことになったと思いながらも、幼い頃から弟のように思ってきたイルカの身を案じて先を急いだ。
アスマ達が里を出たその日のうちに、イルカ達の現在の状況が伝えられた。――捕らえられている。裏社会ではそれなりに名の知れた組織の集まる屋敷に3人とも、という話だ。しかし捕まったのも数時間前のことだと、急げば存命の可能性は十分あるという報告だった。アスマはやはり先を急いだ。
屋敷は思っていたより閑散としていた。別に集会があったわけでもない。こっちは上忍が3人いるのだ、Aランクとは言えまだ楽な仕事である。――イルカ達が、生きてさえすれば。
見つかっても構わない、殺すまで。その覚悟で屋敷に侵入する。一般人の警備員など問題にならないが、中忍レベルの忍術を使う者が3人で守る厳重な扉が地下にあった。扉には小さな窓に鉄格子。ここが牢に違いない。アスマ達は敵3人を難なくのしたが、動けなくしておいて命は奪わずにいた。何か聞き出すことがあるかもしれない。
扉を開けると中からは、小さな戦場の臭いがした。死臭、血臭‥‥まだ、殺されて間もないものだとアスマにはわかった。
アスマの仲間が先に入っていった。気後れしたことを気取られないよう、アスマもすぐに後を追った。
忍になるとはこういうことだ。わかっている。アスマにはわかっている。
忍になるとはこういうことだ。わかっている。アスマにはわかっている。
鉄格子で囲われた部屋が4つあった。そのうちのひとつには屍が転がったままになっていた。そして1番奥に――木の葉の里の、額当て。
「‥‥間に合わなかったのか‥‥」
先に入った仲間が悔しそうに呟く。すぐに牢を開け、亡骸を確認した。息がないのは明らかだった。しかし――
「スリーマンセル、のはずだよな‥‥」
大量の血の中に倒れていた亡骸はふたり。片方は茶髪の女――いや、少女と言っていい。幼さの残る顔は恐怖に歪み、目が見開いていた。それを仲間はそっと閉じさせた。
もうひとりは黒髪の男、だがそれはイルカではなかった。短く刈り込んだ髪に、やはり発達しきっていない身体。
「もうひとりはどこだ?」
もうひとり。イルカ。イルカは?アスマは扉を守っていた男達の方を見たが、そいつらに吐かせるには時間がかかりすぎる。ちっと舌打ちすると、アスマはすぐに駆けだした。目と手でほんの少し合図を送ると、ふたりの仲間はちゃんと通じて頷いた。あと探していないのは2階だけだ。ここにくるまでもひとりで十分な程度の兵力だった。何とかなる。
2階の最奥に、イルカはいた。
その扉は前に警備の者がいるでもなく、何の変哲もない、強いて言えば少し豪華で少し大きな扉だった。しかし他の部屋は全てこの目で見たのだから、ここにいないはずがない。外に連れ去られたのなら絶望的だが‥‥考える暇もなく、アスマは乱暴に扉を開けた。
全身の血が逆流するような、とはこのことを言うのか。アスマはそう思った。血は頭に上ったまま、下りることをしない。だけど心は驚くほど冷静で。ああ、自分は忍なのだ。上忍なのだ。
イルカは3人の男に組み敷かれ、なぶられていた。その横にはふたりの‥‥2体の死体。
そいつらはお前が殺したのか、イルカ。
やるじゃねえか。その調子なら上忍になれる日もそんな遠くないと思うぜ。
ああでもお前は、アカデミーの教師にも憧れてたっけ。そっちの方が似合うかもな、お前には。
そうだよ。
お前に似合うのは無邪気な笑顔だ。太陽みたいに、人をあったかくする。
あったかくするのがお前のすべきことなんだ。俺はそう思う。
冷たくするのは俺達がやるから。血の海はお前には似合わないから。
気づいたら、死体は5体になっていた。
アスマはふたり殺した。体術は上忍レベルと言っていいふたりだったが、アスマは軽傷で済んだ。もうひとりはどうやらイルカが隙をついて奴の一物を切断し、絶命せしめたらしい。扉を開けた時に見た光景を思い出すと、イルカに口淫を強いていた奴のようだ。
赤と白の液体で汚れた、裸のイルカが立っている。目の焦点が合っていない。
「イルカ、」
アスマが声をかけると、イルカは初めてアスマに気づいたようにはっとして声の方を見た。
「‥‥アスマ」
かすれた声。それでも、命はある。そのことにアスマは安堵して、歩み寄った。
「怪我はねえか」
見たところそれほど酷い外傷はない。殴られたのか、右頬が赤く、少し腫れ、口の端が切れていた。もちろん体中に痛みはあるだろうが、死ぬことはないだろう。
しかしイルカの次の言葉に、アスマは耳を疑った。
「ボタンとカケルは‥‥地下にいたふたりは、どうなりましたか?俺の仲間なんだ!ふたりを助けに行かないと‥‥」
――たった今まで3人の男に犯されていたのに、仲間の心配だと?
アスマはふらふらと歩きだしたイルカを慌てて制して、
「‥‥俺の仲間がついてる。心配するな」
と言った。――今本当のことを言うのは、酷過ぎる。
イルカはその言葉にほっと息をついた。そしてようやく自分の身体を見下ろして、気づいた。
アスマは自分が羽織っていたマントをイルカに巻き付けてやった。やっと支給された忍服に、汚れた身体を通すのは嫌だろうと思った。部屋の隅に投げ捨てられたイルカの服一式を拾うと、自分の荷物へ押し込む。しかしイルカはうろたえて、マントを脱ごうとした。
「いいからそれ着てろ」
「でも‥‥汚れて‥‥」
「気にしなくていい。もうボロボロで捨てるとこだったからな」
ちょうどその時、仲間のひとりが部屋へ駆け込んできた。イルカとアスマと、5つの死体を見て目を見開いたが、それで大体の状況を察したようだった。
「そいつがうみの中忍、だな。無事で良かった。もうすぐ処理班が来るから、お前達は先に帰っていいぞ」
優しい声でそう告げる。アスマはふう、と息をついて、
「じゃあ行くぞ、イルカ」
と言うと、イルカをひょいと担いでその場を去った。
「ア、スマ」
「何だ」
「降ろしてください、走れます」
さっきよりはしっかりした声で言うと、イルカは身体を離そうとした。
「何言ってやがる。ふらふらだったじゃねえか」
「大丈夫です」
「俺だって早く里に帰りてえんだ。お前担いで走った方が、ふらふらのお前に合わせて走るより速い」
「‥‥ごめんなさい」
「お前が謝ることじゃねえ」
イルカは大人しくなった。気を失ったのかと思えば、アスマに掴まる手にはまだ力が入っている。ふとアスマは地図を思い出した。この先に、確か。
森を駆けていたがちょっと西へ方向転換するとすぐに場所がひらけた。そこには小さいが湖があった。アスマは足を止め、イルカを降ろした。イルカは呆けた顔をしている。
「少し休む。俺はその辺見てくるから、お前は水遊びでもしてな。一刻くらいで戻る」
荷物からタオルとイルカの服を出して、アスマは森の中へ歩いていった。イルカの姿が見えなくなったあたりで手近な木の根に腰を下ろす。あんな格好で連れて帰ったら、火影のじいさまが卒倒するに違いない。どのみち知ることになるだろうが、知るべき人にしか知って欲しくないとアスマは思った。イルカはあれで潔癖な男だ。同性に、複数に、あんなことをされたなんて。やりきれずに煙草に火を付け、ゆっくりと吸い、煙を吐き出した。
しかしどうしてイルカが?
アスマは疑問に思った。あの場には、ボタンと言ったか、女もいたのだ。イルカより身体の小さい男も。何故イルカだったのか。アスマはちょっと考え込んだが、すぐに考えるのを止めた。
もしあの部屋に連れて行かれたのが他の奴だったら、殺されていたのはイルカだった。そう思うとぞっとしたのだ。イルカが生きていて良かった、殺されたのがイルカじゃなくて良かった、なんて思った。
‥‥不謹慎すぎる。
アスマは煙を吐き出した。
――殺されたふたりにだって、家族や心配する人がいるというのに。何より大切に思っている人がいるというのに。
アスマは煙を吐き出した。
――殺されたふたりにだって、家族や心配する人がいるというのに。何より大切に思っている人がいるというのに。
それすらどうでもいいと考えてしまった。イルカが無事なら、誰が殺されてもアスマは「良かった」と思っただろう。イルカさえ生きていてくれれば。
いつから俺はこんなことを考えるようになったんだろう。アスマはため息をついた。
早くに親を亡くしたからとか、火影のじじいに気に入られているからとか、幼い頃から親しくしていたからとか‥‥そんな理由じゃない。
ただ単に、あの笑顔を見たら誰だって。
太陽を守るのに理由なんか無い。
言ったとおり一刻ほど経って、アスマは再び湖へ向かった。イルカはきっちり忍服を着ていた。いつもてっぺんで縛っている黒髪は解かれてゆるりと風になびいていたし、額当ても外して、右頬は赤いままだったが、乱暴された形跡は残っていなかった。
「行くか」
「はい」
イルカはアスマのマントを丸めて抱えていた。
「捨ててけよ」
「えっ、いや、駄目です、こんなとこに」
大事そうにぎゅっと抱えるので、アスマは思わず笑みをこぼしそうになる。
「あの、俺もう大丈夫ですから。走れます」
「無理すんな。俺が担いだ方が速いって言ってんだろ」
「でも‥‥」
イルカは手を顔に近づけてくんくんと嗅いだ。
「俺まだ血と‥‥血とかの臭いが」
その言葉にアスマは呆れて、
「そんなもん俺が気にすると思ってんのかよ‥‥」
とため息混じりに言った。
立ってるだけでもつらいだろうに、他人を気遣ってここから里まで走って帰ろうとするなど。
だって、とか、でも、とかまだごちゃごちゃ言うイルカを無視して担ぎ上げ、アスマは走り出した。
その日のうちに里に着くことができ、火影直々の歓迎を受けた。
時間帯のこともあってあまり人目に付かずに病院までたどり着いたが、入った途端にイルカは気を失い、はっきりと意識を取り戻したのはそれから2日後のことだった。
(続)
時間帯のこともあってあまり人目に付かずに病院までたどり着いたが、入った途端にイルカは気を失い、はっきりと意識を取り戻したのはそれから2日後のことだった。
(続)
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