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父ちゃんは母ちゃんの事が大好きだ。
多分、いや、絶対、オレの事よりも大好きに違いない。
テレビで『ばかむすこ』が母ちゃんに向かって
『うるせぇ、くそばばあ!!』
なんて、言っているのを見たとき思ったんだ。
家で母ちゃんに向かってそんな事を言ったら、
母ちゃんにも怒られるけれど、
その前に、父ちゃんに無茶苦茶怒られるだろうな、と。
口癖のように『母ちゃんは大事にしろよ。母ちゃんがいなかったらお前は産まれてないんだからな』と言ってるし。
それに、オレが知らない人に褒められたりすると
『ヨシノさんの子ですから』と言うのだ。
『ひにく』や『けんそん』ではなくて、本気でそう思っている。
父ちゃんの子だから、顔を見ればわかるんだ。
それに、すごく嬉しそうに言うからさ。
だから、オレは今日一日だけ『家出』をしようと思う。
何故かって、今日が父ちゃんの誕生日だからだ。
母ちゃんとたまには二人きりで過ごさせてやるのも、
いいんじゃないかと思ったんだ。
普段は母ちゃんの事、なにげに占領しているのはオレだし。
プレゼントの代わりに、今日一日だけ、母ちゃんを返してやろう。
きっと父ちゃんは喜ぶに違いない。
めんと向かって『おめでとう』と言うのは恥ずかしいから、
手紙を書いて行くか。
<父ちゃん、たんじょう日おめでとう。母ちゃんとなかよくな>
これで良し。
黄色いリュックに昼寝用のクッションをつめて
『ねっちゅうしょう』たいさくに水筒をもって。
縁側で爪を切っている父ちゃんに声をかけて家を出る。
『どこに行くんだ?』と聞かれたけれど、聞こえないふりをした。
父ちゃんの誕生日はいつも暑い。
今日もそんな日になりそうだ。
縁側で足の爪を切る。
パチリ、パチリと切ってゆけば
タンパク質の固まりが落ちてゆく。
切られる運命だったんだ、悪く思うなよ。
最後の仕上げに小指の爪を切れば、
黄色いリュックを背負い、水筒をさげた幼い息子が『いってきます』と
パタパタと家から出て行った。
どこに行くきだ?アイツ。
どこに行くんだ?と声をかけるが、聞こえないのか返事はなかった。
最近は暑いから、外で昼寝するのも駄目だと言って、
縁側でへたばっていたのに。
我が息子ながら行動が読めない。変なヤツ。
奥さんに言わせれば、
『あなたたち、一卵性双生児かと思うほど似てるわよ』
ということらしいけれど。
たしかに、
口が悪い所とか
目つきが悪い所とか
めんどくさがりなのに意地っ張りな所とか
似なくてもいいところばかり、似てしまったかなとは思うがな。
新聞紙の上に散らばった爪をまとめて、屑篭へ。
そのまま居間を横切り、書斎に向かえば
机の上に紙切れが一枚。
重しに置かれていた分厚い薬学事典をよければ、
幼い文字がいびつに並んでいた。
なになに、
<父ちゃん、たんじょう日おめでとう。母ちゃんとなかよくな>だと。
『たんじょう日』って、あ、そういや今日だったか。
それで、『おめでとう』は分るがなんで『母ちゃんとなかよく』になるんだ?
幼い故の言葉の間違いか、はたまたそのままの意味か。
しかし、毎年ちゃんと『おめでとう』って言ってくれてたのにな。
今年はナシか?
これは、もう反抗期とかいうやつなのか。
いっちょまえに。
紙の上に踊る文字列に嬉しいながらも寂しいような、複雑な心境だ。
字が書けるようになったのは嬉しいけれど、やっぱ寂しいかもな。
どうせ、暑さに負けてすぐに帰ってくるだろ。
それまで、『息子』のいない時間を奥さんとのんびり過ごすか。
昼を過ぎても息子は帰ってこない。
いつもだったら、昼飯の前にはきちんと帰ってきているとゆうのに。
………、なにしてんだアイツ。
まさか、昼寝しながら乾涸びてんじゃねぇだろうな……。
いや、ぼんやりとしているが、そこまで間抜けじゃねぇぞ、シカマルは。
たぶん。
もう一度、息子の残して行った手紙を眺める。
オレの普段使いのレポート用紙の上に、のたくる鉛筆の文字。
バランスは悪いが、最近覚えたにしては上々だろう。
短い言葉の列をくり返し目で追ってみれば、ある考えが頭に浮かぶ。
まさか。
<仲良くな>って、そう言う事か?
自分は邪魔者とでも思ってるということなのか、これは。
…………ばか息子…………………。
四歳児のくせに生意気なことをしてくれるじゃねぇか。
台所で遅めの昼ご飯の準備をしてくれている奥さんに声をかけ、外に出る。
ほぼ真上にある太陽は、ギラギラと容赦なく暑い。
さて、どこから探すかな。
………、暑い。
梅雨も開けて間もないと言うのに、この暑さはなんだ?
空からの殺人光線と地面の照り返しで死んじまいそうだ。
体温調節なんて雑作も無い事なのだけれど、任務中以外は極力しないようにしている。体に良くないらしいからな、アレは。
しかし、忍服にも夏用ってないのかね。こう、黒くて袖が長いと本当に死にそうになる。ベストも重くて暑い。フル装備だとちょっとした苦行だ。
今は休憩中だから上は脱いだ。また着なきゃいけないかと思うと、嫌だな。
扇風機しかない待機所よりはマシかと思ってここに来たけど
今日は風がないからハズレだった。
この銀杏の木の下は、結構な穴場なんだ。
風さえ吹いてりゃ涼しいし、人も来ない。
のんびりするには最適だ。
待機所だと、五月蝿い連中がいるから夏場は極力いたくないんだよ。
特にアオバの絡みが、夏場は正直辛い。
悪いヤツじゃないんだけどな。
もういい加減大人なのだから、一人遊びくらい出来るようになってほしい。
首筋にも汗をかいたな。親父臭いが気持ち悪いから拭っとくか。
持参してあったタオルで首筋の汗を拭おうとしたら、手の甲に水滴。
なんだ?雨でも降ってくるのか?
確かめるように視線を上に向ければ、幼い一対の瞳。
まるで猫のように、絡み合う枝によって出来たスペースにちんまりと座っていた。
その小さな手には、子供用の水筒が見える。
ああ、水滴の正体はアレか。
にしても、あんな所でナニしてんだ、あの子供は。
見た所、まだかなり幼いような感じなんだが。
子供に『何をしてるんだ?』と声をかけてみれば
『ひるね』と単語だけが帰ってきた。
……、昼寝って、木の上でか。
たしかに、枝がネット状になってるから落ちる心配は無いが。
世の中には万が一、と言う事がある。
危ないから降りておいで、と言えば
渋々ながら子供は素直に木の上から降りて来るようだ。
まず最初に黄色いリュックを木の上から落として
その上に水筒を投下。
それから子供がするすると器用に降りてくる。
大丈夫だと分っていたが、落ちてしまいそうで
中程まで降りてきたら思わず抱き上げてしまった。
そのまま地面に下ろしてやれば、きょとんと見上げられる。
「怖かったか?」
って怖いか。知らないおじさんだもんな……。
出来るだけ笑顔で。これしかねぇな。
恐る恐る子供の反応を待てば、
「いつも上ってるから怖くねぇ」と真面目に返されてしまった。
あ、そっちの意味じゃなかったんだが……。まぁ、いいか。
怖くないと言ってるし。
オレが、そうか、と納得すれば、子供は満足そうに頷いて
ストンとオレの隣に腰を下ろした。
ん?
「もう昼すぎだぞ?家には帰らないのか?」
「今日は夕方までここにいるって決めたんだ」
だから帰らない、と子供は首を振った。
これは、なんだ?
反抗期……ってヤツか?それで家に帰らないのかな。
どうしたものかと子供の表情を窺えば
子供は黄色いリュックを背もたれにし、水滴の浮かぶ水筒に頬を寄せて
あちぃ、と零す。
今日は30度こすらしいぞ、と子供に教えてやれば
嫌そうに眉間に皺を寄せた。
「だからさ、一度は家に帰った方がいい」
「………、いやだ」
頑固だな。
そんなに家に帰りたくないのか?親と喧嘩でもしたのだろうか。
何かしたのか、と問いかければ、別に、と返される。
仕方ねぇな。ここまで意固地になられたらどうしようもない。
持参していた半分凍らせておいたペットボトルの水をタオルにぶちまけてさっと絞る。
それを暑さでぼんやりしている子供に渡してやった。
「それを首に巻いてみな。少しは涼しくなるから」
言われるままに首に濡れタオルを撒いた子供は、驚いたようにまんまるに目を見開き、ホントだ、と言った。
「だろ?温くなってきたら言えよ。また濡らすから」
オレがそう言えば子供はこくんと頷き、照れたように『ありがとう』と零した。
頑固だけど、素直なんだな。
そう言えば、名前を聞いてなかった。
姿形から何処の家の子かは分ってはいるんだが。
あ、そいやオレも名乗ってなかった。
人にものを尋ねる時はまず、自分から。
ちびっ子相手のときは余計にな。
何でもかんでも真似する年頃だから、気をつけなくては。
子供と視線が合うように背中を丸めれば、背後に見知った気配。
それと同時に、目の前の子供の表情がかちんと固まった。
やっぱ、シカク先輩家の子か。
確認するように振り向けば
額に汗を浮かべたシカク先輩が呆れ半分の表情で立っていた。
シカク先輩はオレに、すまんな、と言うと息子に向かって帰るぞ、とそれだけを言った。
そうすれば、子供はオレの服の裾を掴んで首を振る。
どうしますか?とシカク先輩に助けを求めれば
溜息一つ吐き出すと、シカク先輩は息子の前にしゃがみ込みゆっくりと喋りだした。
「シカマル、今日は何の日だ?」
「………、父ちゃんのだんじょう日」
「だな。だから、今日は家族三人で過ごすんだよ」
「でもよ…」
「“でも”はナシだ。今日は父ちゃんが主役だから、父ちゃんの言う事は聞いとけ」
な、とシカク先輩はシカマルに笑いかけると、小さな頭をくしゃりと掻き混ぜた。シカマルも今度は素直に頷いて、オレの服の端をそっと離す。
何があったのかはさっぱり分らないが、とにかくよかった。
シカマルは黄色いリュックを背負うと、首に巻いていたタオルをオレに返した。きちんとお礼の言葉も忘れない。オレが『どういたしまして』と笑いかければ、シカマルもにっこりと笑う。
父親が来て安心したのか、表情が柔らかい。
子供の笑顔と言うヤツは凄いな。こっちまで暖かい気持ちにさせられる。
シカク先輩はシカマルをひょいと抱き上げると、
「世話になっちまったな、休憩中だったんだろう?」とすまなそうに言う。
「全然ですよ。世話なんかしてませんから」
「そんなことねぇ。ちょびっとだけど、世話になった」
先ほどの些細なやり取りを律儀に報告するシカマルに、シカク先輩は、いいお兄さんでよかったな、と言った。シカマルも満足そうに頷くものだから、オレは照れ隠しに苦労するはめになった。
今度の任務明けに何か奢るからよ、と言葉を残してシカク先輩はシカマルを抱き抱えたまま帰って行く。
父親の背中越しに手を振るシカマルにオレものんびりと手を振って答えた。
ゆっくりと遠ざかって行く背中を見つめながら
オレは少し思ってしまった。
オレも早く嫁さんを貰って、子供が欲しいかも、と。
シカクさん誕に書かれたものなんですが。
自分がつい「出てったシカがライドウさんに保護されてればいい」と書いたら
何とエピソードを追加してくださったんですよ!
ウヒィ。すいません。どうしてもライシカ脳ですみません。
でもライ+シカでも十分なんだなと思いました。ライ+ちびシカ。
「父親の背中越しに手を振るシカマル」‥‥これ最強かもしれない。
シカマルはこの後もたびたびこの場所に来るんだろうなと思う。
あわよくばライドウさんに会えるかと。
会えずに中忍昇格後にやっと再会でもよし、何回か会って徐々に仲良くなるもよし‥‥
アスシカももちろんあります、アスシカの方がメインなんだと思います、
そんなクロ雨蛙様のサイトへは是非リンクからトンでください(´∀`)(´∀`)