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その1手
太陽も昇りきる手前の早朝、オレは気配も消さずにかって知ったる他人の家、他人というより親友も親友、むしろ『心の友』と書いて『心友』と呼べるアスマの家に忍び込んだ。いや、忍んでないから忍び込んだという表現には語弊がある。黙って堂々とお邪魔した、と言う方が正しい。以前、ライドウかゲンマかアオバだったかイビキだったか…、その辺のヤツに『人間として気が咎めないのか』的な事を聞かれはしたが、アスマの家は半分、自分の家のようなモノなので、全然気になりません。
玄関の鍵は流石に掛かっているので、庭の窓から鎧戸を開けてお邪魔する。ボロいアスマの家の鎧戸は僅かに軋む様な音を立てたが、素直に開いてくれた。流石にまだ眠っているであろう主の事も考えて、控えめに開けはしたが、ま、侵入した時点で起きていることだろうから、無意味と言えば無意味な気遣いかもしれない。しかし、世の中、無意味と想われる様な気遣いが大切なのである。これをしないのとしたのでは、会った時の嫌みの度合いが違う。他人がどう思おうと知ったこっちゃないが、流石に延々と愚痴られるのは嫌なので、『少々のお気遣い』は常時装備している。発動するかしないかは、微妙な所ではあるけれど。
春先だと言うのにまだ火燵が鎮座ましましている居間を抜け、アスマの書斎兼忍具倉庫にたどり着く。今回は演習で使う予定になっている道具を拝借しに来たんだよね。お目当ての品は音だけは本物そっくりな『起爆札』もどき。
昨日の時点までは確実にあると思っていたのに、今日になっていざ道具チェックをしてみたら、1枚しか無かった。今回はこれをドバーっと張り巡らせて、あの三人を少々驚かせてみようと思っていたのでアレが無いのは正直辛い。なんと言っても今回の演習トラップの要。アレがないのとあるのとでは全然違う。だからこうして朝もはよからアスマの家に来たんだよ。オレって良い先生になったもんだ。 黒塗りの古びた小箪笥を物色してお目当てのものを探す。アスマはいい加減でとても繊細だなんて言えないが、道具の管理はキチンとしていた。ちゃんと分類分けもしているしね。ついでに家事全般もそつなくこなす。いつだってお嫁にいく準備はできてるんだもんなぁ、あの髭は。
久しぶりにアスマの料理が食べたいな、などと余計なことを考えながら黒塗り小箪笥の上から三番めを物色するも、お目当ての品は見つからない。おかしい、と思い他の所も開いてみるも無い。……、まさか、ここの家にも無いのか?オレの家にないものは必ずと言っていいほど、アスマの家にはあるから油断していた。
その当たり前の事が腑に落ちず、オレは書斎をでてアスマの寝室へとむかう。何としてでも『起爆札』もどきの在処を聞き出さなくては。決意も新たに踏み出せば、鶯張りでもないのに、廊下は所々でケキョケキョと可愛らしく鳴く。
寝室の前まで来て、ひと呼吸。気配からしてアスマは起きているだろう。せめてスパンっという音は立てないように、しかし勢いよくオレは廊下と寝室を隔てている襖を引いた。 襖を開けば上半身を起こし、ジト目でオレを見上げて来るアスマと視線が合った。オレはそんなアスマの視線に隠れた『いい加減にしろ』光線を無視して、いつものように問いかける。
「あぁ、おはよーさん。いやいや、起きててくれて助かった。今日の演習で使いたい道具があったんだけどさ、オレのとこで切らしちゃってて。悪いけどもらえないかな~なんて…」
「オマエなぁ、そういうもんは前日に揃えておくもんだろうが…」
だいたいオマエってヤツは…、と真面目に説教しだしたアスマの言葉にオレはそっと心の耳を塞いだ。もうこの歳にもなれば、常識なんてヤツは嫌って程理解しているのですよ。ただ実行に移せないだけで。 生真面目モードなアスマの言葉を聞き流していると、ふと、アスマの寝ている布団の隣に置かれた将棋盤に気がついた。盤上の戦況を観察してみれば、なかなか面白い事になっている。片方の阿呆みたいに真っ直ぐな指し方をしているのがアスマのやつで、もう片方は歪ではあるけれどなかなかな指手のようだ。アスマが説教している間に、どうやってあの布陣を崩したものかとやってみるも、なかなかいい手がみつからない。アスマの半壊している布陣では、どだい切り返すのだって難しそうなのだけれど。しかし、それを崩してみせるのが、天才であり、また将棋の醍醐味でもあるわけで。
ああでもなければこうでもない、と真剣に考えていると流石のアスマもオレの様子に気づいたらしい。これ見よがしに溜息をつくと、将棋盤を引き寄せてくれた。
「どうしたんだ、これ」
将棋の相手に見当がつかずにアスマに聞けば、何とも嬉しそうな表情で
「ああ、オレの生徒と勝負したんだよ。んで、途中だからそのまんまにしてある」と答えた。
まるで自分のとっておきを教える様なその様子に、内心可笑しく思った。その様子だけで将棋の相手に検討はついたのだけれど、なんだかアスマの様子が楽しくて、知らない振りをして聞き返してしまった。
「だれだれ?」
「奈良シカマルだよ。ほら、シカクさんとこの息子だ」
奈良と言えば影使いでもあるが、木の葉で有数の薬剤師の一族だ。しかしそれ以上に奈良シカクと言えば恐妻家でも有名である。恐妻家は関係ないが、木の葉でも有数の頭脳をもつ彼の息子ともなれば、それ相応に賢いらしい。アカデミーの成績と、普段、ナルト達と話している姿からは想像し難いけれど。
「なかなか賢いんだな、アカデミーの成績はナルトといい勝負だったのに」
オレが正直に感想を述べれば、アスマはなんとも複雑な表情を浮かべて黙り込んでしまった。先ほどまでの緩みきった表情はどこに逝ってしまったのか。不思議そうにアスマを無言で眺めれば、アスマは将棋盤から桂馬を取り軽く握りしめ静かに喋りだした。
「賢いなんてもんじゃねぇな、アイツは。まだまだ『天才』だなんて呼べるレベルではねぇが、成長すればとんでもない化け物になるだろうよ」
「化け物ね…」
桂馬は飛車や角より劣って盤上で『最強』とは呼べないが、独特の動きをする面白い駒だ。相手の虚をつくのに長けた駒だが、反面それだけに扱いは難しい。駒の扱いを熟知しているものでなければ、捨て駒にされる機会も多い。アスマが気に病んでいるのは、きっとその点なのだろう。
化け物に成る前に、『捨て駒』にされかねない、と。 忍びの世界は往々にして『力』と『能力』の世界だ。どれだけ術が使えるか、どれだけ技に長けているか。そしてどれだけ特殊で強力な『能力』を持って産まれたか。それは単純に里の上層部の忍をみる時の判断基準となる。よって、能力の芳しくないものや、扱いにくい者などは自然と淘汰されるしくみになっている。いわゆる『捨て駒』だ。
でも、それは無駄な駒では決してない。次に続くものや、仲間の未来へと繋がっているものなのである。それはアスマだって重々承知の筈。
ただ単に、教え子の能力の歪さを危惧しているのかとも思ったが、手の中で所在なげに玩ぶ桂馬をみていると、ある考えが胸の内にわき上がりすんなりと解けていった。
アスマは『桂馬』に消えてほしくないのだ。化け物に成るか成らないか、そんな事は表面上の問題でしかない。
あわせて歪な能力が心配なのではなく、その高い知能から回されるであろう危険な任務に就く未来が心配なのだ。そのなかで自ら『捨て駒』という未来を選択しかねない、そんな賢い教え子が。
今度はオレが溜息をつく番だった。胸の内に溜まったものを、アスマには気づかれないように吐き出す。本当に、阿呆な位に優しいヤツだよこの髭は。その単純な脳みそで、その問題を解決する簡単な答えを出せばいいのに。出せないんだよな、コイツは。単純過ぎるくらい単純なくせに、変なところは鈍感で強情だからな。この将棋を指すときみたいに、やればいいってのに。 こいつは『心友』のオレがひと肌脱ぐっきゃないかね。なにせ、『心友』ですから。相手を無くしてからじゃ遅いんだからな、この手の感情は。経験者からいわせていただくと、はっきり言って二度と立ち上がれなくなる位だから。その喪失感は。
性別がどうのこうのとか、年齢がどうのとか知ったこっちゃないね。忍の命は儚く短い。せっっかく生まれた感情まで、殺して生きる事はないだろ。
オレはアスマの手の内から桂馬を取り上げると、音高く敵陣の真中に落としてやった。
3999hitというニアミスでしたが、キリリクとして受け付けてくださいました!感謝!
リク内容は「第3者視点のアスシカ」。大好きです。
アスシカ手前な感じも大好きです。ほんとごちそうさまです。
いい人なカカシさんもいいですね。そうか‥‥いい人なんだ、カカシさん。
カカシカも個人的には好きだけど、協力者でもいいですなあ。
素敵な小説をありがとうございました、本当に!
他にも素敵アスシカやシカクさんを読みたい方、
クロ雨蛙様のサイト「Mars dog」はこちらからどうぞ。