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NARUTOのイルカシカマルイワシライドウあたりメインのブログサイト。
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目を覚ましたイルカは、3代目火影とアスマの姿を認めて安堵の表情を浮かべた。
2日間ずっと側にいたわけではない。アスマも疲労していたので1日たっぷり休養を取っていた。3代目は執務の合間をぬってイルカの見舞いに来ていたところだった。タイミングが良かったのだ。
この2日、ずっとうなされていたと医者に聞いて、アスマは胸が痛かった。アスマが見た光景は3代目と助けに入った仲間だけが知っている。
イルカは何か言いかけ、だが辺りを見回して、空いたベッドを見つめた。患者はイルカしかいないがここは4人用の病室だ。
 
「ボタンとカケルは?」
 
3代目が「よくぞ無事じゃった」だの「痛むところはないか」だの言ったのを無視して、イルカが口にしたのはまたも仲間のことだった。
「ふたりも怪我をしていたでしょう?別の病室にいるんですか?」
思わずアスマも3代目も黙ってしまう。
「‥‥そんなに酷い怪我を‥‥?あの、顔を見るくらい‥‥」
目を合わせようとしないふたりに、イルカは戸惑った表情をし、そして――敏感にも、察してしまった。
「イルカ」
3代目が重々しく口をひらく。アスマはイルカの顔を直視できず、うつむいた。
 
 
事実を知ったイルカは、まさに半狂乱だった。
この場をやり過ごして、落ちついてから事実を話せば良かったのかも知れない。だが、イルカは嘘を嫌う。後から与えられる痛みはきっともっと激しかっただろう。
仲間のことを忘れて、自分の身体の療養だけを考えていてくれれば。こんなときぐらい、自分のことだけ考えていてくれれば良かったのに。アスマは唇を噛んだ。
泣き叫ぶイルカの背中を、3代目は優しく撫でた。しかし少しも収まらず、イルカは涙をぼたぼたこぼしながら、言った。
「俺が‥‥俺がっ‥‥余計なこと、言わなければ‥‥!」
爪が深く食い込むほどきつく手を握るイルカを、アスマはたまらず抱き締めた。
「お前は何も悪くねえ!自分を責めるな」
「違う‥‥俺のせいです、俺のせいで‥‥」
しゃくり上げながらイルカは話し始めた。ほとんど文に、時には言葉にならなかったが、アスマと3代目は大体のことを飲み込んだ。
 
敵方に見つかり牢に放り込まれたが、ほどなくして敵はボタンをどこかへ連れていこうとした。
口振りからされることがわかっていたので、イルカはやめてくれと叫び頼み込んだ。
すると奴らは笑いながら、別に俺達は男でも構わない、と言った。お前でも構わない、この女の代わりにお前が来るならそれでもいい、と。
イルカはすぐに頷いた。カケルも、それなら俺がと言ったが、3人の中ではイルカが1番年上だったから。
 
そこまで言って、イルカの声は完全に嗚咽のみになった。アスマはイルカの頭を撫でた。父親が泣きやまない子どもにするように優しくしてやりたかった。しかしそうするには、自分はまだまだ幼すぎて。
イルカの悲しみ、非力な自分への怒り、悔しさ、色々混じった涙が溢れた。
3代目はアスマを離し、イルカをベッドに横たわらせた。イルカはしばらく泣きじゃくっていたが、やがて眠りについた。
 
 
アスマはその日ずっとイルカの側にいた。何もせずに椅子に座って、イルカの寝顔を見つめていた。うなされて、うわごとのように何か呟き、少し大人しくなったと思えばまたうなされ‥‥そんなイルカの頭を撫で、手を握った。何の足しにもならないのはわかっていた。ただの自己満足だとわかっていた。
真夜中、それまでイルカが口にする言葉は、ほとんど聞き取れないものばかりだった。なのにその時だけははっきりイルカは言った。
 
「俺が死ぬべきだった‥‥」
 
アスマは驚いてイルカを見た。目は閉じているが、眉間にしわが寄り、つらそうな呼吸が聞こえる。
「イルカ‥‥?」
返事はない。
イルカの手を取って、ぎゅっと握って、アスマは今のイルカの言葉を反芻した。
 
『俺が死ぬべきだった』だと?
 
「馬鹿なこと言うな」
アスマは深くため息をついて、イルカに語りかけた。
「自分勝手だけどよ、俺はお前が生きててほんとに良かったと思ったよ。生きてたのがお前で良かった‥‥殺されたのがお前じゃなくて良かった」
酷いことを言っている、と思った。自覚はあった。
「お前を助けに行く途中、俺はずっとずっと思ってたんだ。他の奴はどうなってたっていいから、お前だけは無事でいてくれって。国ひとつ滅んでたって構わないとすら思った。俺がこんなこと思ってたから、あんなことになったのかもしれねえな‥‥」
イルカの呼吸は変わらない。眠っているのだろうか。ならそれでいい。アスマはほとんど懺悔のように、語り続けた。
「お前は笑うか、それとも怒るか‥‥お前のことだから怒るだろうな。お前は仲間思いだから。自分は平気で身投げ出すくせに、他人が自分のために犠牲になるのは耐えられないなんて‥‥見てるこっちはハラハラしてるんだぜ。今回だっていっつも人のこと気にしてよ。少しは自分のこと考えろってんだ」
病室の外でパタパタとせわしなく動く足音が聞こえた。どこかの患者がどうにかなったのか‥‥しかしアスマは気にしない。イルカのいるこの病室が静かで平穏であれば。
「おかしいか。おかしいよな。俺がこんなこと言うのはおかしいよな。でもきっと俺だけじゃねえ。火影のじいさんとか、お前のことを知ってる奴なら誰でも――だって、そうだろ。お前の笑う顔見たら、誰だってそう思う。もう1度笑って欲しいって。ずっと笑ってて欲しいって。イルカ、お前に血は似合わねえよ。お前が殺ったんだろ?あのふたり‥‥。俺が殺した奴ら、体術は上忍並だったぞ。同じくらいの腕だったんだろ。あんなの3人も倒したんだから、お前も強くなったよな。‥‥でもお前がいるべき場所はそこじゃねえ。そんなことして欲しくねえんだ。お前がアカデミー卒業したとき、下忍になったとき、中忍試験受けるって言ったとき、受かったとき、何度も言おうとした。忍なんかやめろって。普通の人間として、嫁さん貰って、子ども作って、平和に、幸せに暮らせばいいじゃねえか。命の危険にさらされるような仕事なんかやめちまえ。お前が‥‥お前にもしものことがあったら、俺はさっきのお前よりもっとずっと取り乱すぞ。見たくねえだろ?そんな俺」
 
はあ、とアスマは息をついた。そして、自嘲気味に、ふん、と笑うと、
「何言ってんだか」
と後ろ頭をかりかり掻いた。片方の手はまだイルカの手を握っていた。じんわり、温かい。今更そんなことに気づく。
「とにかく俺はお前のことを大事に思ってんだよ。それだけはわかってくれ。ああ、でもあくまで友達っつうか、家族っつうか‥‥そうだな、家族だな。家族としてお前を愛してる。変な意味に取るんじゃねーぞ」
気恥ずかしくなって付け足したが、蛇足だったなとアスマは思った。そしてイルカの頭を出来る限り優しく撫でて、もう1度手を握って、
「‥‥じゃあ、俺はそろそろ帰るぜ。明日も任務だ。Bランクだけどな。戻ったらまた顔見に来る。ゆっくり休め。自分を責めるな。さっきみたいなことはもう絶対言わないでくれ。お前は仲間思いだろ?俺のために、言わないでくれ。俺のために、自分の身体を大事にしろ。いいな」
そう言ってイルカの病室を出る。1度だけ振り返ったが、すぐに向き直って自宅へと歩きだす。
 
 
許されたかったんだ。
他の誰からでもなく、お前から。
お前が笑ってくれれば、血に染めたこの手も、黒い過去も、何もかも。
お前だけだった。お前だけが、俺の闇に光を与えてくれた。
許してくれ。
お前だけだったんだ。
 
 
 
 
 
 
(続)
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