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NARUTOのイルカシカマルイワシライドウあたりメインのブログサイト。
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アスイル風味ですので、「イルカさんはカカシさんとでなきゃ嫌!」という方はすっ飛ばしてこちらをご覧下さいね。

 
 
短くて淡い夢――似たようなものは、もう何度も見た。
目覚めたときにはほとんど忘れているのだけど。
暗く暗く長い森。里の外れにある森のようで、全然違う。
そこを俺は走ろうとする。‥‥でもうまく走れなくて、進めなくて、もどかしい。
初めのうちは高くジャンプするのも成功するけど、すぐに足は地面から動かなくなってしまう。
もどかしい。
もどかしい。
早く向こうに、俺は向こうに行きたいんだ。
早く行かなきゃ。
待ってるから。
 
はやくいかなきゃ。
声を出さずに唇だけ動かしていた。目は閉じたまま、頭が覚醒するのを待つ。
すい、と髪を撫でられるのを感じた――太い指、大きな手。
やっとまぶたを持ち上げると、視界はほとんど肌色で覆われていた。目の前にアスマの手があった。
「起きたか」
アスマは手を引いて、代わりに俺の顔を少し覗き込んだ。俺が目を向けると何故か安堵の表情を浮かべていた。
「うなされてたみたいだが‥‥嫌な夢でも見たか」
夢?うなされていた‥‥俺が?
身体を横向きにして少し考える。起き上がる気力は、まだない。
「覚えてない」
夢なんてずっと見ていない。ごくたまにバカバカしいものをうろ覚えに覚えているくらいだ。
しかし
「はやくいかなきゃ」
そんな言葉を、思わず口にしていた。
「どこに」
アスマは驚いた顔をして俺を見ている。少し表情が曇っている。そりゃあそうだ、俺がいきなり変なこと言い出したんだから。俺自身まったく意味がわからない。黙っていると、アスマは軽く溜息をついて
「疲れてるんだろ。ゆっくり休んどけよ。‥‥俺はここにいるから」
と言ってまた俺の頭を撫でた。さっきは髪の毛の感触を確かめるような動きだったけど、これは俺の肌にしっかりぬくもりを残して、安心感を誘う類のものだ。
「アスマ、一緒に寝ませんか」
「バカ、そんな狭いとこに大の男がふたりも寝られるか」
確かに俺が横になってるのは普通サイズのシングルベッドだ。アスマひとりでも縦が足りてないんじゃないかと思う。
「じゃあ俺も床で寝る」
「いいからそこで大人しくしてろ。俺はまだやることあんだよ」
アスマの手元を見ると、何やら資料の束があった。これからの任務に関する情報だろうか。
「ごめんなさい」
素直に謝って、俺は再び目を閉じた。身体が重い。すぐに眠りにつけるかと思っていたのに、醒めてしまった俺の頭はなかなか意識を失わなかった。カサ、カサ、とアスマが資料をめくる音だけが時折聞こえる。
身体をゆっくりと起こした。アスマはこっちに背を向けている。煙草の煙がゆらゆらとのぼっていた。
音を立てずにベッドを降り、その背のすぐ後ろに腰を下ろして、そっと額だけ寄せた。あ、俺、額当てつけてない。そう言えば髪も解かれている。少し目線を後ろに向けると枕元に一式が置かれていた。
「どうした」
アスマは振り向きもせずに言った。拒否されないのに安堵して、俺はもう少しだけ重心を預けた。
 
ごめんなさい。
ほんの少しの間、このままでいさせて下さい。
 
あのね、アスマ。本当は。
俺は。
本当は。
誰でも良かったのかも知れない。
こうして人肌を感じられれば。ぬくもりを与えてくれれば。
俺はずっとこうしたかった。誰かに身体を預けて、その間、日頃の心配事や不安な気持ちを忘れさせて欲しかった。
相手がカカシさんでも、ゲンマさんでも。
誰でも良かった、はずなのに。
なのに俺はふたりをわざわざ拒否して、今アスマの体温を感じてる。
カカシさんがしてくれたように、アスマがこっちを向いて抱きしめてくれればいいのにと思う。
ごめんアスマ。
俺、本当は。
カカシさんでもゲンマさんでもなく、アンタが俺のことを好きだと言ってくれてたら、俺を幸せにしてくれると言ってくれてたら、俺だけが欲しいと言ってくれていたら。
俺はもしかしたら。
‥‥なんて、自分勝手なこと。
ごめんアスマ。
ごめんカカシさん。
ごめんゲンマさん。
俺、最低だ。最低の男なんだ。
 
だって3代目が亡くなった今、俺と1番長くいてくれてるのはアンタだろう?
アンタのことは兄のように父親のように、家族のように思ってきてて。
人間としても忍びとしてもずっとずっと凄く凄く尊敬していて。
俺だって子どもじゃない、憧れと恋愛の区別はついてるつもりだ。‥‥つもりだった。
ゲンマさんがあんなこと言うから、よくわからなくなってしまう‥‥俺の中の「嫁さん貰って子ども作って」って人生の目標が揺らぎつつあるんだ。
それだけが幸せへの唯一の道だと信じていた俺が、お父さんみたいなアスマと一緒に子どもを育てていけたら、なんてことを、一瞬。そんなのも悪くないんじゃないかって。
今まで考えたことのない選択肢が頭にあふれて止まらなくなる。
男を、忍びを愛してしまったら、俺は絶対後悔するに決まってるのに。
それでも思わずにいられなくて。思わずにいられなくなってしまっていて。
 
 
こんなことを打ち明けたら、アンタはきっとまた、それは一時の気の迷いだなんて言うだろうけど。
でもね、アスマ。
この気持ちを恋と呼ばなくても、俺はアンタのことが好きなんだよ。
今までずっと、これから先もずっと。
アンタ次第なんだ。
アンタが言ってくれれば。
アンタがそう思ってくれてたら。
 
 
でも俺は、だってやっぱり。
全てを投げ打ってまで伝えるような気持ちじゃないんです。
ごめんなさい、俺はどうしても自分勝手で、弱くて、勇気がなくて、最低な奴で。
 
ぱた、と少しだけ音がした。
俺の目頭からこぼれたしずくが膝に落ちた音だった。
この音がアスマに聞こえてませんように、と俺は願った。
 
聞こえたら、アスマは俺を抱きしめてくれるのだろうか?
 
それでも俺は、やっぱり。
 
身体が震えないように声がもれないように、全神経を集中させたのに、一方で、流れる涙の音だけはそのままにしていた。
 
 
 
 
 
 
こう、気付いて欲しいけど気付かれたくない、みたいな。
めめしいイルカさん。
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