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ごめん、シカマル。
こんなちっちゃい身体のお前に支えてもらって、折れるほど強く抱きしめたくなって。
ときどき忘れそうになるんだ。
お前がまだ12歳だってこと。
ふと目が覚めた。
窓の外はまだ暗い。一旦眠ったら朝まで起きない俺にしては珍しいことだ。
もう一眠り、と腕の中のシカマルを抱き締め直した。あったかい。シカマルの身体ってほんとあったかい。抱き心地いい。しあわせ。
そしたら、むに、と柔らかいのが唇に当たって吸い付いてきた気がした。
うっすら目を開ける。シカマルの顔がすぐそこにあって、目が合うと驚いた表情になった。俺もちょっと驚いた。
「起きてたのか」
時計を見たら午前2時を過ぎていた。
もしかしてずっと起きてたとか?シカマルに限って不眠症なんてことはないだろうが‥‥まあ、布団に入ったの、けっこう早い時間だったしなあ。若者にはちょっとつらかったか。悪いことした。
「眠れない?」
寝起きの掠れた声で聞くと、シカマルはぼそぼそと「ちょっとは寝た」のようなことを言った。
俺の寝相のせいで寝にくいのかもしれない、別々で寝た方が良かったかなあ、とも思ったのだが、目を覚まして隣にシカマルがいるときの幸福感はどうしても譲れないしと自己中心的に考えを改めた。まったく、俺ってやつは。
数時間でも、眠ったら頭がすっきりした。風呂入った後は強烈な睡魔に襲われて、シカマルに髪拭いて貰ったりキスしながら半分寝てた。どうもあったかいシカマルを抱きしめてると気持ちよくなってしまっていかん。
でも俺ばっかり気持ちよくなってて悪いなあと申し訳なくも思っている。俺の方がだいぶ年上だというのに情けない。
気持ちいい、と言えば。
シカマルに聞いておこうと思っていたことがあるんだった。
額や瞼にキスしていた唇を離してシカマルの顔を覗き込むと、目がばっちりひらいてるのがわかった。普段は眠そうな顔してるのに、いざベッドに入るとこうだとは。ちょっと面白い。
「シカマル‥‥俺とキスするの、嫌じゃないか」
なるべく何気なく言ったつもりだけど、シカマルの大きく開いてた目はさらにまんまるになった。
「‥‥何言い出すんですか」
あ、すげえ呆れられてる。今にも溜息つきそうだ。
「いや、俺、技術には自信がないから」
本当に情けない話だが、俺は25歳という年齢の割にはこういう経験が浅い。とても浅い。それが普段の生活にも時折表れるのか、年上には「イルカ先生って初心なとこがかわいい」などと言われたりする。それはそれで甘んじて受け入れる。でも‥‥シカマルはそんなこと思わないだろ。
色々考えた結果、おでこやほっぺにちゅーするくらいなら技術も何もないよなあ、なんて思って、それで愛情表現することが多くなった。けど、いつまでもそんな消極的なこと言ってられないよなあ‥‥とも。
シカマルはやはり溜息をついた。そしてちょっと俺を睨み付けて、一瞬ためらいながらも唇にキスしてきてくれて、ちゅうと音を立てて離れた後で、その口をひらいた。
「嫌なわけねえだろ。馬鹿なこと言わないでくださいよ」
馬鹿って言われた‥‥少し嬉しい気持ちになるのは何故だ。
とりあえず安心して、シカマルをまた抱き締め直した。
「そっか、良かった。ちゃんと気持ちいい?」
俺としては特別おかしな質問ではなかったと思うんだけど。シカマルは再び目をまんまるくして、口もぽかんとひらいた。
「な、何‥‥だっ、‥‥う」
ごにょごにょと単語の断片をもらすシカマルの反応を見て、あ、俺やらかしたな、と後悔した。
「だよな‥‥ごめん、もっと頑張るから、俺」
気持ちいいわけねえよなあ。下手だもんなあ。むしろシカマルの方が上手いもんな。年上の威厳ってものはどこに行ったんだ。
「べ、つに、そのままでいいすけど」
シカマルは俺にぎゅっと抱きつきながら、小さな声でそんなことを言ってくれた。
気遣わせちゃったか。俺ってばつくづく情けない。
「だってどうせなら気持ちいい方がいいだろ」
努めて明るく言った。
正直に思ったこと言ってくれてもかまわないんだぞ。それくらいで落ち込まないぞ、俺は。
「だから‥‥その、今のままで充分、だって」
「でも、ちゃんと気持ちよくなって欲しいし」
「いいってば」
俺の胸に顔をうずめてるシカマルがムキになって答えるので、俺ってそんな、救いようのない程下手なんだろうか、と不安になった。
「何だ、俺だってやろうと思えばだな、その」
強がってみるが自分でもパッとしねえなとは思う。わかってるよ。
話してれば話してるほど惨めになってくるので、ちょっと話題を方向転換しようと試みた。
「シカマルのキスは、なんかいいよな」
「え」
おでこを俺の胸にすり寄せていたシカマルが顔を上げたので、俺はまたそのおでこにちゅうとしながら言った。
「何て言うか、赤ちゃんみたいでかわいくて好きなんだ」
「‥‥‥‥」
顔を上げたときはちょっと目が輝いてたはずなのに、俺の言葉を聞いた後のシカマルは絶句して顔を強張らせたので、あ、またやらかしたか、と気付いて、慌てて後を続ける。
「いや、アレだぞ、赤ちゃんみたいに吸い付いてくるって意味で、別にシカマル自身が赤ちゃんみたいって言ってるんじゃないぞ」
しかし時既に遅かったのか逆効果だったのか、シカマルはムスッとした顔を変えることはなかった。
「どうせガキですよ、俺は」
「ち、違うって」
あああ、すげえ怒ってる。声違う。
シカマルってナルトほど感情を露わにしなくて、そりゃ嬉しいときは笑うし、怒ることもあるけど、我を忘れるなんてことは絶対ないんじゃないかと思うくらい、普段は冷静で落ち着いてる。自分を卑下するとこも見たことない。俺は俺、の超マイペース型なのに。
何とか機嫌を直してもらおうと、できるだけ優しく頭を撫でて、頬を撫でた。そうしてしまってから、あ、こういう動作も逆効果なのか、しまった、と後悔した。
「き‥‥キスなんか、したことねえんだから仕方ねえだろ」
「そうか、うん、そうだよな」
まだ不機嫌そうな声で言う。どうしたら直るかなあ、とシカマルの背中を撫でながら考えていると、シカマルはぽつりと、独り言のように言った。
「‥‥イルカ先生が教えてくれればいいじゃねえか」
「何を?」
「お、おと‥‥なの、キスの仕方‥‥とか」
途切れ途切れで、殆ど消え入りそうな声だったし、下向いてるからどんな顔で言ったのかはわからない。わからないけど‥‥しっかり聞こえた。
でも、だからさ、俺は。
「あのな、知っての通り、俺はまだまだ未熟者で、教えられるほどじゃあ」
「‥‥さっき頑張るって言った」
「う、んん、それはその、練習してくるから‥‥」
「誰で練習する気だよ!」
「あ、いや」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
俺、馬鹿すぎる。
これじゃあ呆れられたり怒らせたりしても無理ないよなあ。
でも頑張るってのは本当だから。ちゃんとするから。
「じゃ‥‥ふたりで練習するか」
そう言ったら、やっとシカマルの目が、もう1回輝いた。
どこまで続くんだろう。終わらせてもいいんだけど。
心が青いと書いて情けない。ということで強引にタイトルに結びつけることに成功しました。