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あー‥‥緊張する。
そうだ、緊張してるって言うんだ、この状態。今日ずっと落ち着かない気持ちだったのはそういうことか。
イルカ先生の家に泊まるのは2回目で、前よりはリラックスできてるんじゃねえかとは思うけど。
あのときのことは思い出したくない‥‥なんつー恥ずかしいことしたんだ、俺は。
そのおかげで今こうなってるとはいえ、もっといいやり方があっただろうに。どうも俺はイルカ先生が絡むと‥‥まあ、いい。
のぼせる前に上がろうと俺は湯船を出た。
イルカ先生が、先に風呂入ってろ、その間に夕飯準備しとくから、と言ってくれたので、お言葉に甘えてほかほかしていたわけだ。
いつもより念入りに洗いつつ、なるべく早く出ようと急いでもいた。またイルカ先生が様子を見に来たらコトだ。別に身体見られるくらいはいんだけどよ、男同士だし。でもできたらもう少し成長してから、もう少し明るくないとこでがいい。あんな風に無防備に寝てるとこなんか。あれ以来風呂で寝るのやめたんだぞ、この俺が。
イルカ先生は一緒に風呂に入りたがるけど。そりゃ、俺だって、そういうのもいいなと思うけど。うっかり興奮して身体が反応したら、さすがに恥ずかしい。うっかりどころか、確実にそうなるだろうなという変な自信があるし。
風呂を出て服を着ていると、台所から陽気な鼻歌が微かに聞こえてきた。おいしそうなにおいもする。
デート、っていうか‥‥買い物の後は昼飯食って、その辺の店ぶらぶらして、公園でのんびりして、それから夕飯の食材を買いにスーパーへ入った。幸運なことに知り合いには誰にも会わずに済んだ。
夕飯は海鮮鍋をすることにした。ひとりで鍋は寂しくなるからできないんだ、前にしたのはナルトがサクラとサスケを連れてうちに来たときかなあ、とイルカ先生はちょっと眉尻を下げて言った。
スーパーの袋を持って手をつないで歩きながら、「寂しい」って感情をイルカ先生の中から俺が取り除けたらいいのになあと思った。
頭をバスタオルでわしゃわしゃと拭きながらイルカ先生のいる台所へ入っていくと、イルカ先生は振り返って、鼻歌を止めて笑顔になった。
「上がったか。入浴剤どうだった?」
「ん、いい感じだった」
「気持ちよかった?」
「‥‥はあ」
イルカ先生は「気持ちいい」という言葉を使いすぎだと思う。あんな無邪気に。俺が気にしすぎなのか?
鍋はもうちょっと煮たら完成というとこまできていた。うまそう。ぱっと見、魚や野菜の切り方なんかは普通に上手い。台所もきっちり整理整頓されてるし‥‥やっぱりひとり暮らしが長い分、家事は相当のもんなんだろう。
で、何でイルカ先生は俺の頭を一生懸命拭いてくれてるんだ。
「ちゃんと拭かないと。うちドライヤー無いから」
とかなんとか言ってる。まあ、楽でいいけど。これが俺んちだったら母ちゃんがちゃんと乾かせってうるせえ。
イルカ先生って、何かするとほんとそればっかに集中するっつうか。前、俺のアルバム見てたときもそうだったし、今も俺の髪拭くのに夢中で、俺がちょっとだけ背伸びして唇を上に向けてるのには気付かない。もしかして今日髪縛ったときに「キスして」を無視したからか?仕返しか?
しばらくわさわさぐりぐりやった後、イルカ先生は満足そうな笑顔で俺の頭からバスタオルを取った。そうしてやっと顔を近づけてきたと思ったら、目の横、こめかみの下あたりにちゅうとキスして、再び鍋の方に向き直った。あと5分、とか呟いてるのが聞こえる。
おいおい、今度は鍋に集中しちまうのかよ。
外ではアレだけど、ふたりのときは俺は唇にして欲しいんだぞ、キス。言っただろ、キスは普通ここにするもんだって。知らねえのかよ。額へのキスは友情のキス、頬へのキスは厚情のキスっつうんだ。愛情は唇なの!
場所によるキスの意味の違いなんて気にするのも馬鹿馬鹿しい。頭ではそう思う。けど。
あーもう。いーよ、そうだよ、単純に唇にして欲しいんだよ、俺は!だってお互いあったかいし、唇がイルカ先生の味になる。‥‥てことは、イルカ先生の方も俺の味がしてるってことか?う、わ。
そんな馬鹿なことを考えてたら頭が火照ってきた。風呂上がりってことでどうにかごまかせるだろう、と適当に思った。でもやっぱりどうにも止まらなくなって、あっち向いて鍋をゆっくりかき回してるイルカ先生の背中にぎゅっと抱きついた。
「腹減った?あと4分待ってな」
鍋じゃねえって。そして何でそんな細かいんだ。鍋奉行かよ。俺奉行になれよ、ちくしょう。‥‥俺の脳みそ、だんだんおかしくなってきてねえか。
イルカ先生があと3分かなんか言ったとき、俺はついにしびれを切らし、できる限りの背伸びをしてイルカ先生の首の付け根に吸い付いた。うなじの下ら辺。首へのキスは‥‥まあ、意味なんてどうでもいい。
実際にはいつもみたいにちゅうと音がするまではいかなかった。ちょっと吸った時点でイルカ先生の背中がビクンと震えて真っ直ぐになったから。振り向いたイルカ先生はほんの一瞬のうちに真っ赤になっていた。
‥‥ええ。何この好反応。
「変なとこにちゅーするんじゃない!まったく‥‥前も首にしてきたよなあ、お前」
ちゅーって言うな。今のはキスだ。ちくしょう。
でも凄くいい反応だった。イルカ先生は首が弱いのか?いいこと知った。
‥‥‥‥。
‥‥ん?
今、何かおかしなこと言わなかったか?イルカ先生。
「‥‥‥‥イルカ先生?」
「ん?あと2分だぞ」
「前も‥‥って何すか」
「何が?」
ちょっと待て。待て。おい、イルカ先生、アンタ、まさか。
「ああ‥‥前、シカマルんちで一緒に寝てたときも首にキスしてきただろ?違ったっけ」
「は‥‥!?」
「俺はほっぺとかの方が好きだなあ、どうせされるんなら」
俺んちで一緒に寝たときって、それ。
俺のナニがああなって仕方なくイルカ先生でアレしたあのときのキスのことか!?
起きてたのかよ!反応しなかったじゃねえか!いや、あのキスの後すぐ寝たのかもしれねえし‥‥いや、でも‥‥!
「ん?でも首の後はほっぺとか口とかにもしてくれたんだったか?うとうとしてたから記憶があやふやだなあ‥‥そう言えばあのときのシカマル、」
うわああああ!!その先は聞きたくねえ!!
俺は思わずイルカ先生の頭をガシッと掴んで力任せに引き寄せ、その口を口で塞いだ。
顔真っ赤で息もちょっと荒くて、頭掴んで夢中で吸い付いて。俺、何かすげえ興奮してねえか。
急に頭が冷えて、恥ずかしくなったので唇と手を離した。顔をまともに見れない。額をイルカ先生の胸にすり寄せて抱きつくと、ちょっとの間、イルカ先生は俺を抱きしめて頭を撫でてくれた。ふふ、と笑い声が少し聞こえた気がした。
頭を撫でる手が離れたかと思うと、イルカ先生の向こうで、カチ、とコンロを消す音がした。
やっと顔を上げたら、イルカ先生は俺の頬にキスして
「飯にしよ。お腹鳴りそう」
と笑った。
いただきます、と手を合わせて食べようとしたら、下ろした髪が邪魔だった。俺は無視していけるんだけどイルカ先生は気になるようで、もう1度縛ろうかと言ってきた。
買ったばっかりのあの紐で濡れた髪を縛るのは何だかなあ、と思って、元々使ってた紐で縛ることにした。
「‥‥これぐらい、自分でできるって」
髪をくくる俺の手を制してイルカ先生が手を伸ばしてきたので、俺はつい口を尖らせた。
「ん、でも俺、シカマル触るの好きだし、縛るのも好きだし」
そう言ってイルカ先生は丁寧に俺の髪をまとめた。
触るの好き、縛るの好き‥‥か、考えすぎだよな。
海鮮鍋と言っても、入ってるのは魚2種類と野菜数種類だけだ。十分だったけど。鮭って白身魚なんだよなあ。白菜うめえ。ある程度食べたら雑炊にして。
食べながら、またキスの話題になった。いい加減外でするのはやめようって。
「だから、シカマルがかわいく『お願い』って言ったらやめるってば」
イルカ先生はまだそんなことを言う。
「それ、アスマも同じようなこと言ってたっすけど」
「アスマ先生、だろ」
俺が嫌そうに言うと、イルカ先生は顔をしかめた。
アスマなんか呼び捨てでいいじゃねえか、めんどくせえ、と思ってたら、イルカ先生はしばらく黙ってもぐもぐ口を動かして、ごくん、と飲み込んだ後
「俺のことは先生付けで呼ぶくせに、アスマ先生は呼び捨てなんておかしいだろ」
と呟いたので、俺は危うくお茶を吹き出すところだった。
ちょっと咽せながら涙目でイルカ先生を見たら、イルカ先生はたまに見せる意地悪そうな笑みを浮かべていた。
「シカマルはいつになったら俺のこと名前で呼んでくれるのかなあ」
「え‥‥や、そのうち」
呼び捨てになんかできる気がしねえけど、とりあえずそう誤魔化してもう一口お茶を飲んだ。顔熱い。
反則だ。何だよ、上忍師を敬えってことじゃねえのかよ。ただの嫉妬かよ。その表情、普段の温厚で優しいイルカ先生とギャップあって、すげえドキドキさせられるんだぞ。計算してんのか。全部計算のうちなのか。天然じゃねえのかよ、アンタ。実はドS、とかだったらどうしよう‥‥それはそれで‥‥とか思ってる自分が怖え。いや、俺はマゾじゃねえぞ。全然違う。でも、イルカ先生がそっちならよ‥‥。
ぐるぐると考えていたら、イルカ先生は俺の腕を取って、ちょっと引っ張った。顔赤いの見られるの嫌だけど今更だなあと思って、俺は素直に側に寄った。イルカ先生は、にや、と笑って、
「俺のこと、呼び捨てにできたら外でキスするのやめてやる」
などと言い出した。
えええ。まだ「かわいく『お願い』」の方がマシだ。イルカ先生はイルカ先生だろうが。イルカ‥‥なんて無理、絶対無理。
俺が下向いて黙っていると、イルカ先生は俺の肩を抱き寄せて、
「お前はもう俺の生徒じゃないだろ」
と耳元でぽつんと言った。
それはそうだけど。けど、俺の中では、イルカ先生はいつまでも俺の先生で、尊敬してて、大事な人で。教師と生徒という間柄に、『元』がついてしまうのはなんだか寂しいんだ。卒業したらもう何の関係もない、なんてのは嫌だった。
でもイルカ先生が言いたいのはそういうことじゃなかったらしい。
「俺の生徒、じゃなくて恋人だもんな」
低くて甘くて、ゾクゾクするような声で囁かれて、耳をちゅっと吸われたら、俺じゃなくてもこの人に思い切り抱きついてキスして、その先を求めてしまうだろう。
だからせめてこれから先、こんなイルカ先生を他の誰にも知られませんようにと、俺は初めてカミサマなんてものに祈った。
(続)
シカマルがもう少し青くなれば良かったんですが。