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NARUTOのイルカシカマルイワシライドウあたりメインのブログサイト。
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「休みなのにこんな早くから出かけんのか」
玄関で靴を履いていると、後ろからオヤジの声がした。
「あー。遊んでくる。帰り、明日んなるから」
さっき母ちゃんに言ったのと同じ台詞を振り向きもしないで伝えると、背中に感じる空気が微かに変わった気がした。だけど不思議に思って少しだけ視線をオヤジにやったときには、オヤジはいつもの締まりのねえ笑顔になってた。
「そーか。じゃあ久しぶりに母ちゃんと‥‥」
そう言って鼻歌交じりにさっさとリビングの奥へと消えていく。母ちゃんと、何だよ。言わなくていいけど。相変わらずよくわかんねえオヤジ、と溜息をついて、俺はやっと玄関のドアを開けた。
 
穏やかであたたかい風、真っ青な空。雲の流れを見るのは好きだけど、たまには何もない空も悪くねえ。どこまでも透き通っているのにその向こうは見えない、この青色は誰かを思い出す。まあ‥‥これからその誰かに会いに行くわけだが。
もう日が真上近くまで来ている時間なのにオヤジが「こんな早く」と言った理由は、普段遊びに行くときは大抵チョウジを連れて行くから。あいつは3時のおやつが終わらねえと色々動きづらくてめんどくせえんだ。俺も休日はゆっくり寝ていたいし。母ちゃんに起こされて朝飯食ってもう1回寝て、起きたらチョウジんちに行く、ってのがいつものパターンだ。
でも今日はやっとイルカ先生と休みが重なったから、前々から約束してた買い物に行くんだ。
もっと早く、前の晩から一緒にいたいくらいだったけど、イルカ先生は急遽Bランクの任務に付き添うことになったとかで、帰ってきたのは夜遅くだったそうだ。
今日は泊まっていっていいって話だから別にがっつく必要はないんだけど。けど、やっぱり、昨日の夜はなかなか寝付けなかった。今日の朝はすげえ早く起きた。
さすがに走っていくのは恥ずかしいなあ、とひとりで照れて、できるだけゆっくり歩こうとした。雲を見上げながら歩く、普段のペースで。でもなあ、空の色を見ると、余計に気持ちが急いて。気付いたら早足になっている。
 
俺の身体ってこんな正直だったんだな。イルカ先生と親しくなれてから、知らなかった自分がどんどん出てきて少し焦る。滅多にしない自己嫌悪っつー気持ちにもなったり。
それすら今は「幸せだなあ」なんて、な。
 
 
待ち合わせの場所に着いたのは約束の時間より20分も早かった。
高ランク任務の集合のときでもこんな早く来たことねえのに‥‥俺すげえ浮かれてる人みたいじゃねえか。否定できないけど。
うー、知り合いに見つかったらめんどくせえなあ。
10班も今日は休みなんだよなあ。アスマ、チョウジはまだしも‥‥いのはうるせえからなあ。
イルカ先生まだかなあ。こんな早く来ねえか。きっちり5分前行動とかしてそう。
見たことある、程度の顔はちらほらいる。平日の昼前の割に人通りが多い。
ナルトやキバが通ったりはしねえだろうな‥‥ナルトに会ったら1番めんどくせえ。せっかくのデー‥‥いや、ふたりでの買い物、邪魔されるかもしれねえし。手つないでるとこなんか見られたら‥‥何でイルカ先生とシカマルが仲良く手つないでんだ、俺も一緒に行くってばよー、とか、そんな感じになるんだろ。イルカ先生はほんとナルトに甘いから、そんなん言われたら「仕方ないなあ」かなんか言って連れて行きそうだもんなあ。うわ、マジ勘弁。来るなよ、ナルトだけは来んな。
イルカ先生はまだかなあ‥‥着いてから5分しか経ってねえのか。早く来ねえかな。疲れてるから遅れて来るかもなあ。そわそわすんなあ。
空‥‥やっぱり雲はあった方がいい気がする。ただ青いだけの空ってどこ見てていいのかわかんねえ。動いてたり、形があったり変わったりするもんがあった方が面白え。あの青色はイルカ先生っぽいけど、でもなんか、どっか違うような。限りなく近いのにどこか違う。何だろ。自分で考えててよくわかんなくなってきたけど、とにかく空の青はイルカ先生と凄く似てる。似てる、だけでやっぱりどっか違う。
まだ8分かあ‥‥約束の時間まであと12分。
イルカ先生が青なら俺は何色だろうな。自分のイメージカラーなんてわかんねえなあ‥‥じーさんみてえ、ってよく言われるってことは、この服みたいな渋い緑とか灰色とかそんなんか?ええ。青には白が似合うと思うんだよな、俺は。別に何だっていいけどよ。青には白じゃねえ?空には雲、から来てるのかもしれねえけど。でも俺‥‥俺はどう考えても白って感じじゃあねえよな‥‥。
ああもう、何くだらねえこと考えてんだ。早く来ねえかなあ、イルカ先生。あと9分。
イルカ先生とこんな風になるまでは、似合うだとか釣り合うだとか、そんなのは気にしなかったのになあ、俺。お互いに好きならいいんじゃねえの、って程度で。嫉妬だとか独占欲だとかも馬鹿馬鹿しいと思ってた。イルカ先生への想いもすぐに消えてなくなるって‥‥会わなくなったら、すぐに。そこまで何かに執着するようなことなかったし。
今でも頭では思うんだけどな。イルカ先生が俺以外の誰かと笑ってるの見ても、イルカ先生が楽しいならいいじゃねえかって。俺だって他の奴といて面白えと思うことあるじゃねえかって。頭では、わかってるんだけど。何故か胸の辺りがざわざわして、もやもやして、落ち着かなくなる。他のものが何もかもどうでもよくなれば、イルカ先生のとこに走っていって、この人は俺のもんだって言って、キスでも何でもしちまえるのに。‥‥しねえけど。そんなめんどくさくなりそうなこと。
 
時計が約束の時間まであと5分になったとき、ちょうどイルカ先生がこっちにやってくるのが見えた。予想通り過ぎて少し口元が緩む。
遅えっすよ。いや、俺が早すぎたんだけど。おかげでどうしようもなくくだらねえことごちゃごちゃ考えちまったじゃねえか。
イルカ先生は俺の姿を見つけて、小走りで駆けてきた。満面の笑みで。それ見たら俺の中の色々が吹っ飛んだ。
「シカマル!ごめんな、待ったか?」
「イエ、俺も今来たところです」
何かなあ‥‥慣れないシチュエーションでイルカ先生に会うのは、こー、気恥ずかしいっていうか。変に口調が丁寧になったり、表情固くなったり、目合わせらんなくなったり。もう。何だよ。俺何だよ。
「シカマルは遅刻してくるイメージあったのになあ‥‥休みの日だけ早起きするタイプか?」
そう言いながら、イルカ先生は自然な仕草で俺の手を取った。
まあな‥‥アカデミー内でキスしてくるんだから、手つなぐくらいはするよな。こんな割と人通りのある場所でも気にしないよな。わかってたよ。いいよ別に。‥‥期待してたとかじゃあねえぞ。
 
知ってる顔がいないか注意を払いながら目的の店までゆっくり歩いた。イルカ先生のする他愛のない話に、もっと気の利いた返事ができればいいのになあと思った。そんなもんいちいち気にしなくたって、考えてることそのまま話しゃあいいんだろうけどよ。ちゃんとイルカ先生を楽しませたいなあとも思うから。
幸い誰にも声を掛けられずに済んだ。遠巻きにイワシさんっぽい人は見つけたけど、向こうもイルカ先生も気付いてないみたいだったからスルーさせてもらった。
着いた店は髪飾りを専門に扱っているところだ。何となく店のマークに見覚えがある‥‥いのがよくこのマークの入った袋を持っていたような。特に興味なかったから確信はねえけど。
この店の結紐はしっかりした作りで、相当長持ちするので忍びの利用者が多いのだとイルカ先生が教えてくれた。確かに、ちょっと手に取ってみるとかなり丈夫そうだった。
ごくごくシンプルなものから、細かい花だのついてるもの、もはや縛れるのかわからないほど豪華に飾られたものなど、一口に結紐と言ってもかなりの種類がある。
「どれがいい?シカマルは青が好きだったよな」
無意識に青い紐を目で追っていた俺は、そのイルカ先生の一言にちょっと目を見ひらいた。
「な、何で知ってるんですか」
俺が言うと、イルカ先生は紐を選びながら、笑顔で
「卒業文集のプロフィールに書いてただろ。すんごいやる気ない字で」
と返してきた。
そんなもん書いたっけ‥‥覚えてねえ。俺すら覚えてねえのに何でイルカ先生が。まあ、ずっと覚えてたんじゃなくて最近読み返したかなんかしたんだろうけど。やめろよなあ‥‥作文とかも書いてるんだぞ、アレ。すんごいやる気ねえやつ。
ちょっと耳が熱くなってるのを無視しようと、俺も紐選びに集中した。
青、青‥‥おい、イルカ先生、何でピンクで花たくさんついたのを俺の髪に当ててんすか。
「意外と似合うな‥‥」
「いや、さすがにつけねえから」
「そうかあ‥‥?俺がプレゼントしてもつけない?」
「‥‥イルカ先生も同じのつけるんですよね?」
「別のにしよう」
 
あれこれ見ていて、ふとひとつを手に取った。
透き通るような綺麗な青なのに、どこか深みを感じさせる青さだった。光に当てると、ほんの少し白く、ちらちらと輝く。この青‥‥空の青に似てるようで、でもどこか違って。
「いい色だな。空‥‥より、海って感じかなあ」
イルカ先生が俺の手の中を覗いて何気なく言った。
 
うみ。
 
ああ‥‥そうだった。何でこんな簡単な答えが出なかったんだ。
この青色は海の色だ。そんで‥‥イルカ先生の色だ。空の青を反射しているだけのはずなのに、空よりずっと濃く深く見える。ときどき白い波が立って。‥‥やっぱり、青には白だな。
「それ気に入ったのか?それにする?」
少しの間だったけど黙ってその青に見入っていた俺は、はっとして顔を上げて、そのままこくんと頷いた。
「じゃあこれに決まりな」
イルカ先生は2本取って、奥のレジへ足を向けた。俺は、さすがに店内で手つなぐのは気が引けて、半歩後ろをついていった。
「イルカ先生はそれで良かったんすか」
あまりの即決ぶりにちょっと不安になって聞くと、
「シカマルがいいと思ったやつなんだからいいに決まってるだろ」
とにっこり笑った。
でも、ピンクも良かったけどな、ともぼそっと言ったのを、俺は聞き逃さなかった。
 
 
イルカ先生の分は俺が買いたかったけど、中忍昇格祝いなんだからと頑として譲られず、結局2本ともイルカ先生が買った。
店を出てすぐの道の脇でイルカ先生はいきなり俺の身体を抱き寄せてきたので、また外での過剰なスキンシップだろうかと身構えたけど、イルカ先生の視線は俺の頭にあった。開けて、と紐の包みを渡される。
ここで縛っていくのか、早速だなあ‥‥と思いつつ、俺もすぐつけたかったし、と包みを解いた。イルカ先生は俺の髪をほどいてる。
買ったばかりの紐を渡すと、イルカ先生はそれを受け取って、今まで俺の髪を縛っていた紐を代わりに俺の手に落とした。
‥‥髪縛ってもらってる、って状況はいいんだけど、何で向かい合った状態で、なんだろう。恥ずかしい。
「できた」
イルカ先生が満足げに呟く。
どーも、と言って頭を触ると、いつもより少し低い位置に髪をまとめられているのがわかった。これはこれでいいな。‥‥イルカ先生っぽくて。
顔を上げたら、イルカ先生は紐を口にくわえて、自分で髪を縛ろうとしているところだった。
「俺がやる!」
と慌てて腕を掴んでやめさせると、イルカ先生はちょっと驚いた顔になったけど、すぐに笑顔で腕を下ろした。
向かい合って髪縛るのって難しいぞ‥‥。身長差もあるし、あんまり顔近づけたら恥ずかしいし、イルカ先生キスしてきそうだし。紐くわえてても油断できない。
ある程度きれいにまとめることができたので、髪を片手で押さえて紐をイルカ先生の口から取ろうとした。ら、何故かイルカ先生は目をつぶって、んー、ってちょっと唇突き出してて。
‥‥おい、イルカ先生、何で完全に「キスして」体勢に入ってるんすか。
ちら、と周りの様子を窺ったら、今のところは特に注目されてる風でもなかった。が、キスなんかしたらそうじゃなくなるだろうことは予想がつくので、俺は(表面上は)平然と、イルカ先生の口から紐を取った。
目をひらいたイルカ先生は不満そうな表情をしていたが、俺はとりあえず髪を縛る方に集中した。
 
やっとで縛り終えると、イルカ先生はにやっと笑って、素早く俺の額に口付けた。このくらいはもう慣れっこだ。
再び手をつないで歩き始める。どこかで飯食おうか、という話になって、適当な和食屋に入った。一楽じゃあナルトに会うかもしれねえしって俺の危惧は、食べながらの会話で消えた。
「修業の旅‥‥ナルトがぁ?」
「そうなんだよ。自来也様と。3日前だったかな、出発したの」
自来也って、5代目と同じ伝説の3忍とか言われてる人だったか。オヤジに聞いたことあるな。ナルトはそんな人に稽古つけてもらうのか‥‥成長早いもんな、あいつは。教え甲斐があるっつうか。
俺も俺でもっと技磨いたりしてえとこだけど、何せ根がマイペースだからなあ。別に焦ってもいねえし。
でも、そういう話を聞いて真っ先に思ったのが、「ナルトの話をするときのイルカ先生は凄く楽しそうで寂しそうだなあ」ということだったのは、ちょっと反省すべきかもしれねえよな。
だって親が子ども自慢するときの顔だぞ、それ。ひとり息子が自立したときの顔だぞ。デレデレしやがって。
いーんだけどよ。イルカ先生にとってのナルトは息子とかそんなんだし。嫉妬の対象になりえねえし。俺は恋人だし。全然気にしてねえけど。
 
表情にも出さずそんなことを思っていたのに、目が合ったイルカ先生は、ナルトのことを話すときよりももっとデレッとした笑顔を俺に向けたから、強がりは強くならねえといけねえなあと思った。
 
 
 
 
 
 
「イルカさんはともかく、めんどくさがりのシカマルが紐で髪を結ぶはずはない。ゴムだろう」
というつっこみはご遠慮ください。
だって紐の方がいいじゃないですか。語感とか。
ゴムがゴムがって何回も書いてたら意味合いが変わってきそうですし。
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