3分の1 2008/01/16 (Wed)

命を絶つことであの人の心に消えない俺を残せるなら、それもいいかと思えた。

――なんて身勝手なんだろう。

だって正気じゃいられないでしょ？

気が狂うほどあの人のことを考えてるのに、ちらっとだって伝わってるか怪しい。

何度か食事や飲みに誘っても、話はガキどものことばかり。

帰り道で「手をつなぎましょう」とすら言えない、俺の縮こまったこころ。

 

 

夜が白み始めた。

眠れない日が続いて初めて、夜の長さに気付く。

まざまざと。

でも長くないと困るんだ。

あの人のことは考えても考えても考え足りないんだから。

そうだね、“これは恋なんです”。

知ってるよ。

だって

あの人の顔を横切る1本の傷痕を思い出すと

戦場を駆けていた頃よりもずっと早く大きく、心臓の音が聞こえる。

辺りが闇に包まれている間中、ずっと。

ほてった身体を起こして、熱い熱い溜息をつく。

 

 

あの人を幸せにしたい。

あの人の笑顔を思い出せば

凍てつく夜の寒さもいつしか甘い快感に変わる。

ふしぎ、ふしぎ。

 

 

正気でなんていられない。

俺があんなに笑顔で、何回も話しかけて、誘って、

そんなのあの人に対してだけなのに。

ちょっとした優越感すら、あの人は抱いてくれないんだから。

いつか言ってやりたい、「ずっと一緒にいたい」という言葉は

未だに俺のこころに押し込まれたままだ。

 

 

血でべっとりと汚れた俺の身体は何度洗っても綺麗にはならなくて

無駄にごしごし擦ってるうちにすっかり荒れ果ててしまったけど

あの人の太陽のような笑顔を見られたら

それだけで全身にみずみずしさが染み渡るのを感じられるんだ。

ふ、し、ぎ。

 

 

あの人を幸せにしたい。

敬語とか、敬称とか、いらないのに。

こっちがどれだけ頑張って歩み寄っても

あの人はすぐ一歩引いてしまう、それがくやしい。

俺とあの人は男同士で、上忍と中忍だ。

あの人はかわいいお嫁さんもらうのが夢で

子どもは野球チームが作れるくらい欲しいなあなんて言う。

それでも

平穏でフツーの日々だけが幸せとは限らないでしょ？

どんなことでもしてあげるから

障害なんてぶっ壊して進むから。

 

 

俺の愛がまだ足りないなんて言うつもり？

どれだけ欲張りなの、あの人。

もういっそはっきり言ってやりたいのに

黒く澄んだ瞳を見ると、やっぱり気後れして。

喉まで出かかった言葉は、明後日の方向に消えていってしまう。

長く里を空ける任務は耐えられないから

せめて任務依頼書はあの人の手から受け取って

「いってらっしゃい、気を付けて」の言葉を聞きたいなあ。

会えない間はその声を何度もこころの中で繰り返すから。

手に触れたいと思い始めて随分経つし

今はもっともっと先のことも妄想してしまう。

なのに指の先すら、あの人には届かない。

 

 

あの人を幸せにしたい。

あの人と幸せになりたい。

もし、この腕の中に、あの人を抱き留めることができるなら、

あの人の腕が背中に回るのを感じられたら‥‥

 

もうそろそろ俺の愛は上限だよ？

この間の夢が効いてるのかなあ。

あの人の幻が相手なら、あんなに素直に話せるのにね。

今の俺は、立ってるだけでもイキそうなくらい幸せ。

あの人に狂ってからはずっとそうだ。

俺をこんなにした責任取ってよね。

破裂しそうな俺の愛、3分の1でもいいから受け取って。

感じて。

気付いて。

今日こそあの人に

「アナタを愛しています」と言えますように。

すっかり顔を出した太陽に、縮こまったこころを向ける。
　
　
　

 　

純情なんて言葉、俺には似合わないもんね。
　
　
　
　
　
　
（続）

お察しの通り、某黄金期ジャンプ作品のアニメに使われた某曲を元にしています。
自分では「I love you」を訳すとこうだなあとか‥‥。